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スタバの片隅でブスが呟く

近所のスタバにイケメンスタッフがいる。
仮に彼のことを山田さんと呼ぼう。

 

山田さんはシュッとスタイルが良く、さっぱりとした顔立ちで、今どきの若者らしく盛りっとしたヘアスタイルをしている。
印象としては、鰯のマリネといったところだろうか。シチリアのレモンをたっぷり使った爽やかマリネ。
単純な料理に見えて、素材と調味料が良くなきゃ不味くなる。手をかけ過ぎてもかけなさ過ぎなくても美味しくない。その辺りの絶妙なバランスを上手に取っている山田さんはセンスがいいんだろう。

決して山田さんが生臭いとかそういう意味ではないです。

山田さんはコーヒーを作る手際も良く、なおかつフロアの様子やスタッフの行動にも気を配っていて、必要なときにさりげなくスタッフに指示を出している。

よくよく山田さんの名札を見たら、そこには「店長」とあった。むべなるかな。

自己主張の激しそうなスタバのスタッフ(自分は他人の気持ちを和ませる自信があるってタイプじゃなきゃ、あの仕事はなかなかできないと思う)を若くしてまとめ上げる山田さん。
爽やかなだけじゃなくて有能とは。

けれど、ワタシの中の山田さんの印象はイマイチだった。
つか、むしろ悪かった。

なぜかというと、山田さんは愛想が悪い。

別に、スタバのスタッフは皆が皆客ひとりひとりに「いつものカフェモカでいいですか? お仕事頑張ってくださいね(はぁと)」という応対をすべし、なんてことをワタシは期待していない。
チャーミングでキュートな女子に気の利いたことを言われるとキュンとくるけど、キュンキュンしたくてスタバに行くわけじゃなくてカフェインを身体に注入するのが主目的なのです。

でも、だからといって、カンジの悪い応対でいいってことにはならない。

山田さんの愛想の悪さは「笑顔を一切浮かべない」というレベルではないのだ。
「ワタシを見て眉を顰める」とか「すげー歯切れの悪い受け答えをする」とか「応対の合間に溜息を吐く」とか、そんなレベル。

仮に山田さんに笑顔がないとしても、彼の見た目なら全然許されるだろう。
ちょっと口角を上げただけで女子達は舞い上がる筈だ。
でも、眉根を寄せるのはアカン。なんだこいつカンジわるっ。としか思えない。

ところが、この山田さんのカンジの悪さはワタシのせいだった、ということが判明した。

 

というのも、いつもワタシはそのスタバに行くとき、ご近所だからとかなり油断した格好で行っていた。
一応化粧をしているけど、シミが隠れて眉毛が書いてありゃいいやって程度。
髪の毛も寝癖隠しにテキトーにまとめただけで、靴はアウトレットで2,000円で買ったスニーカー。

要は、かなり美人度の低い状態でスタバに行っていたのです。

それがある日、用事のついでにそのスタバに行ったところ。

山田さんが微笑んだ!

クララが立った! てくらいの衝撃。
山田さん笑えるんだーとまで思ってしまった。

そのときワタシはどんな格好をしていたかというと、それなりの場所に出入りする予定があったから精一杯美人度を上げていた。
化粧はいつもの倍の時間をかけたし、髪はキレイに巻いていた。
コートはマックスマーラ、パンプスはフェラガモ、バッグはグッチと、どこのイタリアンマダムですか状態。

いつもの態度の悪さはどこへやら、はにかみながら丁寧な応対をする山田さんを見て「格好って大事だな…」と愕然とした。

これは別にワタシの勘違いではなくて、その後「気の抜けた不美人状態」と「バッチリ決めた美人風」とを何度か繰り返して山田さんの態度を検証したので間違いはないです(←ヒマか)。

 

山田さんみたいに人の外見であからさまに態度を変える人は、そんなに珍しくはない。
接客業で店長までやってるのに「テメエみたいなブスはスタバに来るな」的な態度を取る人は珍しいけど、大抵の人は美人に優しくブスに厳しい。

これは、ワタシが40年間ブスに分類されるタイプとして生きてきた中で体感したことで、間違いない。

美人は許されることでも、ブスは許されない。
美人は優先されて、ブスは後回しにされる。
美人は選ばれて、ブスは邪険にされる。

何もワタシはモデルになりたいわけではない。それは美人がやればいい。そこまで均等な機会は求めない。
だが、美醜は別に関係ないじゃんってことでも美人は優遇され、ブスは冷遇される。
ブスの人生は、理不尽に耐えることの連続だ。

こんな理不尽な仕打ちから逃れたくて、ワタシも美人になりたいと熱望したことがあった。
特に色恋沙汰が最高潮に達する年頃では、ブスであることは非常に大きなハンデになる。何しろ恋愛市場に乗ることさえできないのだから。
恋愛成就云々以前に、片思いの彼がスタバの山田さんのように「ブスは来るな」と眉を顰めないためにはどうしたらいいか、ということを真剣に悩まなきゃいけないという辛酸を舐めなくてはいけない。

ただ、ブスであることの不便さを痛感しながらも、不思議とワタシは整形をしようとは思わなかった。
ちょっとやそっと手を加えたところでどうにでもなるようなブスではなかったし、何より

You play with the cards you’re dealt. …whatever that means.

という心境だった。

理不尽に耐え続けていると、神様が配ったカードの種類をいちいち嘆いているヒマがないのです。

40年間もブスをやっていると、ブスというカードの意味を少し理解できるような気がする。

実は、ブスなりにも楽しみがないわけではないのです。
そのひとつ、いかに美人っぽく見せるかというスキルは異様に上がるという特典がある。
山田さんのはにかみを見て「コイツ、騙されてる。ハッハッハ」と腹の底で笑う、という暗い遊び方もできる。
お世辞で「美人ですね」と言われるようにでもなれば、理不尽なこともだいぶ減る。そもそもの幸せのハードルが低いから、これだけでも結構ラクなのだ。

何よりも、歳を取りゃどんな美人でも「ババア」としてブスと同じカテゴリーに放り込まれる。
美人とブスのカードの差は、その頃になるとそこまで大きくない。

 

だから若いブスよ。
わざわざ整形することもないよ。